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eoe後使徒化+女体化したシンジ(=碇レンorシオン)が別世界にトリップした設定のクロスネタがメインの二次創作サイトです。碇レン最愛で最強。クロス先のキャラとのCPが基本。 現時点で単品で取り扱いがあるのは深淵と鰤とrkrn。深淵と鰤は主人公総受け、rkrnはきり丸中心です。
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・いきなりマイナー3年ろ組三人×きり丸小話

・勿論色々捏造です。
・こんな感じで仲良くなったらいいなー、という妄想です。
 

基本的に此のサイトのきり丸は色々と冷めてます。
ただし空気は読めるので(普段のボケは読めてても読まなくて良いや、と思ってスルーしてるだけ)相手に合わせて言動を選びます。内心でかなり擦れた事思ったりしても、基本下級生、特に一年生の前では口にも顔にも出しません。

*きり丸総受けです。
*上級生も敵サイドも、皆きり丸大好き設定です。
*原作様クオリティでは軽~く流されているあれやそれ、を時々捏造交えて重々しく軸に持ってきたりします。
(忍として、の諸々とか、きり丸の過去捏造とか、戦場のどろどろとか、)

ので、上記を読んで少しでも嫌だな、と思った方は、絶対に!!ご覧になりませんように、お願いします!!


読了後の苦情批判は受け付けません。
誹謗中傷は無視します。


 



 

 

 

 

 


「う~~~、だるい、痛い、体が重い・・・・」
 


日課である朝の新聞配達を終えたきり丸は、足早に学園に戻ろうと山道を急ぎながら呟く。
何時もは意識せずとも夜明け前には綺麗に目が覚めるのに、今日に限って中々意識がはっきりせず、危うくバイトに遅刻しそうになった。それでも何時も以上の手際のよさで終了時間はむしろ早めることが出来たため、無事に賃金を受け取れたが、学園に帰る段になって、少しずつ身体の動きが鈍ってきたのだ。次いで頭がずきずきと痛むし、もう初夏も過ぎたというのに、寒気まで感じ始める。多少の不調なら「病は気から!」と言い聞かせることもできるが、無理が祟って風邪を拗らせたりしたほうが、後々の生活に支障がでると経験で知っているきり丸は予定していた内職を先送りして身体を休めるしかないか、と溜息を吐いた。


 

「くっそ、こんな時期に風邪ひくなんてなぁ。まあ、納期には余裕があるし、仕方ねぇか・・・」

 



半ば引きずりそうな足を無理に進めて長屋に戻ろうとしていたきり丸が、ふと足を止めた。

出来れば乱太郎達には心配かけずに済ませたい。
だが今の自覚症状から鑑みて、もし顔を合わせたならすぐに不調を見抜かれるだろう。幸い今日は乱太郎もしんべぇも、委員会の用事と学園長からのお使いとでそれぞれ外出しているから夕刻までは問題ないが。


 

「・・・・夕方までに、・・寝てるだけじゃ、完治はできねぇかもな」

 


ちらり、と裏裏山に視線をやってきり丸が呟く。
基本的な生活習慣の中では徹底的に無駄を省いて倹約に努めるきり丸だが、倹約できないものもあると、知ってはいる。・・・・その内の一つが傷病用の治療薬だ。こればっかりはうっかり倹約したりすると症状を悪化させて、余計に不調を長引かせる、などという悪循環を生むこともある。だからといって、薬などという高級品を買う銭の持ち合わせなどない。


 

「うう、だりぃ・・・けど、仕方ねぇな。今のうちなら、何とかなるだろ」

 


通常よりも遥かに鈍い思考で結論を出したきり丸は、のろのろと向かう方向を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして通常の倍近い時間を掛けてたどり着いた裏裏山では、元気な罵り声が響いていた。

 


 

「おいこら、待てぇ!!そっちは反対だ馬鹿左門!!縄が切れる、引っ張るな!また迷う積りかこの阿呆! って、ちょ、勝手に進むな三之助!!あからさまに道を逸れて茂みを分け入る必要が何処にあるんだ、また迷いたいのかこの馬鹿が!!」



三年ろ組名物の、迷子捜索班富松作兵衛の渾身の突っ込みである。



「俺は迷ってない」


「寝言は寝て言え、迷子その1!!何でこんな縄に繋がれてんのかいい加減に自覚しろ三之助!!」



淡々と断言する次屋三之助の言葉に、更に怒りをヒートアップさせた富松が叫ぶ。

 


「帰り道はこっちだ!!」


「違ぇ!!それじゃあ反対方向だとさっき言ったばっかりだろーが、迷子その2!! 方向音痴自覚してんなら、自分の勘を信じるんじゃねょ左門!!」

 



またもや学園とはかけ離れた方向を力強く指差して走ろうとする神崎左門を、寸でで引き戻した富松が怒鳴る。

 

 


と、そんな騒がしい光景を、遠目でぼんやり眺めているきり丸の手には、僅かな薬草が。



「(元気だなー富松先輩。しかし、声がでけぇよ。かなり、頭に響く・・・・くっそ、早く採って帰ろう。)」

 

 

 

町に売りに出す品物を調達するために日頃出入りするから、既に裏裏山の地理の殆どを知り尽くしている。しかし流石に体調が芳しくない状態では思うように採取が出来ない。かといって、これっぽっちでは薬効は望めない。もう少し必要だな、と重い足をひきずって賑やかな光景から視線を外した。
そこで、
 


「あれ、きり丸?」

 


後ろから声がかかる。面倒だと思いながらも、普段の表情を取り繕って振り向くきり丸。

 


「はい?あ、こんにちはー。富松先輩。なんすかー?」

 


流石忍術学園の先輩である。まだ3年とはいっても、この程度の距離なら隠れているわけでもない後輩くらい見つけてしまうか、と内心で舌打ちしながら明るく返事をして見せた。入学後少しだけ所属した用具委員の先輩である富松は、離れていたところから、方向音痴二人を縄で引っ張りながら歩み寄ってきた。二年生や滝夜叉丸などに比べれば遥かにマシだが、今は誰にも会いたくなかったのに、と思いつつ仕方なくそのばで待つ。



「お前こんなところで何してんだ?」



面倒な先輩が多い学園の中でも、比較的まともな部類に入る富松のことは嫌いではないが、今はとにかく一人になりたくて適当な言い訳を口にしようとする。だが、寒気はますます酷くなり、既に触覚まで鈍り始め、握り締めているはずの薬草の瑞々しい感触も何処か遠い。


 

「なんだ、金吾の級友か。作と仲が良いのか?」


「前に言ったろ三之助。用具にちょっとだけ入ってすぐに移動した一年の一人だよ。」

 


そこできり丸の顔を見知っていたらしい次屋が富松に尋ねる。富松の簡潔な言葉に納得したのか肯いた次屋。その隣に矢張り縄で繋がれた左門が怪訝な表情できり丸をみている。


 

「なあ、そいつ具合悪いんじゃないか?前に団蔵と居た時よりも顔色が白い気がするが」


「は?」



方向感覚は壊滅的だが、その正確無比な記憶力には定評のある神埼がきり丸を示しながら富松に聞く。その言葉に首を傾げつつ再度きり丸を見据えた富松。余計な事を、と、きり丸は内心で舌打ちした。


 

「なぁに言ってんすか、神崎先輩。」

 


軽くいってのけたきり丸の仕草も口調も完璧だった。一般人ならば、例え大人であろうと完全に誤魔化しきれただろう。だが、流石忍たま。改めて様子を見聞した富松は神崎の指摘に肯いて、きり丸のほうへ一歩近づく。


「確かに顔色が悪いな。きり丸、ちょっと」

「平気ですって!!俺急ぐんで、」



心配そうな表情で手を伸ばしてくる富松。恐らく額に触れて熱を測ってくれようとしているのだろう。
 慌てて足を引くきり丸。あからさまに誤魔化す笑みを浮かべた動作に、富松の眉間に皺が寄る。これは図星か。呟いて、素早くきり丸の腕を掴んだ。



「って、あっつ!おま、これちょっと具合悪いどころじゃねぇぞ!!なんでこんな所ほっつき歩いてんだ、この阿呆!」



富松は、触れた子供の体温のあまりの熱さに思わず叫んだ。



「いやなにって、」

「ああもう!ほら、早く帰るぞ!ったく、何考えてんだ」


反論しようとしたきり丸の言葉も聞かず、富松はそのまま踵を返す。だがそこで待ったがかかった。



「おい作。」

「ああ?!今急いでんだよ、後にしろ三之助」

「いや、そいつ歩かせたら不味いんじゃないか?かなり熱高いんだろ?」

「そうだな、なら、私がおぶってやろう!」

「それもそうだな、じゃあ左門、」



呼び止めた次屋に不機嫌そうに返した富松だが、続いて発言した指摘と、左門の申し出には素直に肯く。確かに、こんなに具合の悪い人間に山道など歩かせるべきではない。かといって自分が背負ってしまえば方向音痴二人を引率できる人間が居なくなる。と考え、左門を振り返ってきり丸を押し出そうとした。

 
「って、ちょっと待ってくださいよ!!僕は用事が、」



だが抵抗してのはきり丸だった。軽く腕を握っただけでも簡単に察せられるほどの高熱にも関わらず、富松達には通常通りの表情を保つ子供が、腕を振りほどこうとする。




「馬鹿いうな!こんなに熱あるくせに、なんで大人しく寝てねぇんだ!!良いから帰るぞ!!」



手のかかる子供(同級生の迷子常習犯然り、自由気ままなマイペースな委員会後輩の一年坊主然り)の面倒ならばある意味見慣れている富松は、そんなきり丸の抵抗を軽くいなして拘束を緩めない。



「そーだぞ!きり丸。」

「何の用か知らないけど、治ってからにした方が良いんじゃないか?」


神崎と次屋も富松に同意する。だが言われずとも、早く治す事に関してはきり丸もわかっているのだ。だからこそこんな時に裏裏山に着たのに、と苛苛してきた。



「わかってるっすよ!だから薬草採りにきてんです!!心配しなくても、必要な分とってきたら直ぐに帰ります!!」



酷くなる頭痛と不本意に引き止められる苛立ちで、つい誤魔化す事も忘れて、ぺろっと本音を口走る。そんなきり丸の台詞に唖然としたのは富松達の方だった。



「「「は・・・?」」」



信じ難いものを見る目で見下ろす三年生三人に気づかないきり丸は、驚愕で緩んだ拘束を幸いに軽く腕を振り解いて踵を返そうとする。



「じゃ、そういうことなんで、先輩方、失礼しまーす」



そしてこの期に及んで未だに富松達には表情を取り繕うきり丸が、通常通りの明るい笑みを浮かべて挨拶をした。その声にやっと我に返った富松が、再び慌て逃げる子供を捕まえる。

 


「って、ちょ!待て待て待て!馬鹿かこのアホ!」

「いい加減にしてくださいよ!いい加減熱が上がりきる前に薬を調達したいんすよ!」



引き止められた数分の間にもどんどん悪化する体調に、等々虚勢を張るのも辛くなったきり丸が熱と怒りに紅潮させた顔でしつこい先輩を睨み上げた。だが、富松も、縄に繋がれたまま事態を見ていた次屋と神埼も、きり丸の怒りと反抗など気に留めず引止めにかかった。


「だから、待てってきり丸!!」

「おいおい、わざわざ自分で探さずともまず保健室に行けって。」

「そうだぞ。新野先生か保健委員に頼めばいいだろう!」


「・・・・・・は?」



富松、次屋、神崎に言われ、本気で虚を疲れた表情で動きを止めたきり丸が、呆けた声で聞き返した。


「だから、保健室にいって治療してもらえば、」


これは余程具合が悪くて朦朧としているのかと言葉を繰り返そうとした富松。



「ほけんしつ・・?・・・・・・・・・・・・・ああ、そっか。」


拙い口調で言ったきり丸。やっと納得したか、と安堵しかけた富松達は、次いで呟かれた子供の言葉に、・・・言葉というよりも、感情をそぎ落としたかのような平坦すぎるきり丸の声音に、呼吸すら止められた。



「そっか・・・・・・ああ、・・・・・俺も、使っても、いいのか。」

「きり、丸?」


おそるおそる名を呼んだ富松に気づかないきり丸が、透明すぎる眼差しで学園の方を振りかえって続ける。



「・・・そっか、そうじゃん。・・・・もう、体調崩して働けないからって、直ぐに路頭に迷う心配は、しなくていいんだ。なんだ、そっか。・・・そっかぁ。学生って、良いなぁ。」



そうしてきり丸が、本当に嬉しげに安心したように笑うから。


三人は。











「はよ、きり丸」

「よお、きり丸」

「おはよう、きり丸!!」

「・・・・おはよーございます。富松先輩、次屋先輩、神崎先輩。なんすか、今からバイト行くとこなんすけど。」


数日前、薬草を採りに裏裏山に行って、そこで富松・次屋・神崎の三人に会った事までは覚えていたが、途中で体調が悪化して気を失ったらしいきり丸は、その時の事を何も覚えていなかった。だが、保健室で目が覚めたときに診察してくれた新野先生から、富松先輩達が運んでくれた事を聞いてはいたので完治した後お礼の挨拶に出向いたのだが、その後何故か事ある毎に三人に声をかけられるようになったのだ。

そして今日、前回の休日に稼げなかった分を取り返すべく、はりきってバイトに出かけようとしたところを、矢張り何時もどおりに呼び止められた。前回分の損失を埋めるためにちょっと無理な予定を立てていたため、早く出かけたくて気が逸っている所為で返事が素っ気無くなったが、富松達は全く気にしていない。



「ああ、わかってる」

「だから俺達も」

「手伝って”あげよう”と思ってな!!」

「”あげる”!!?貰います!貰いまーす!!・・・・って、はあ?」


何故か完璧なコンビネーションで言葉を続けた三人。最後の神崎の言葉に反射的にはしゃいだ声で返事をしたきり丸が、一瞬置いて怪訝な表情で三人を見上げた。対する三人は、とても良い思いつきだ!!とでも言いたそうに晴れやかな笑みできり丸を見下ろした。


「・・・・・ありがたいっすけど、なんで行き成り?」


「いーじゃねぇか。折角の休日だけどやる事ねぇんだよ。暇つぶしに町に下りようと思ってたら、お前がバイトに行くっつー話を聞いたからな」


他意など微塵も感じさせない少しだけぶっきら棒な物言いで富松が笑い。



「俺も。暇だし」



淡々と次屋が肯き。



「お礼だ!!この間、団蔵が終わらせられなかった帳簿付けを手伝ってくれたからな!!」



元気良く神埼が叫ぶ。

神崎の台詞の最後の言葉に力が抜けかけた身体は、次屋が素早く支えてくれたため膝はつかずに済んだが、今一思考の読めない三年生三人に、微妙な警戒交じりの視線を向けるきり丸。

真正面に居たため、そんなきり丸の表情の変化を逐一観察できてしまった富松が内心で含み笑った。



「(まるで、人に懐かねぇ野良猫みてぇ・・・・)だぁーら、暇つぶしだっての!お前は手伝いの人手が増えて、俺達は暇が潰せる。利害の一致だ。悪かねぇだろ?」

「まぁ、助かりますけど・・・・」



実際問題、きり丸一人では捌けるかどうか若干自信がない部分もあったので、富松の申し出は渡りに船だ。


「じゃ、早速行くか。今日は何のバイトなんだ?」



話は終わったとばかりに次屋は足を門の外に踏み出している。きり丸を支えていた体勢からそのまま歩き出したので、半ばきり丸を抱え込んだ状態だが本人は全く気にせず町を目指している。・・・次屋が町と信じている方向があっていればだが。


「よし!では出発!」


張り切る神埼がびしぃ!と力強く腕を突き出した。・・・・町とは反対方向に。




「って、アホかー!!三之助、左門!!お前らは先頭歩くな!縄から外れんな!!今日だきゃあ迷子になっても探してやんねぇからな!!」




慌てた富松が、きり丸に向けた笑顔を一転して、怒声と共に方向音痴二人を迷子防止の縄に繋ぐ。対する次屋と神埼も、今日迷子になるのは確かに都合が悪いな、と大人しく富松の指示に従った。



「ふ、・・ふふ、あははは!・・・先輩達って、いっつもそうなんすかー?大変っすねぇ、富松先輩?」

「そうなんだよ、大変なんだよ。この方向音痴共がなぁ・・・」



学園内でたびたび見かける3ろ名物のトリオ漫才に、きり丸が明るく笑う。警戒交じりだった視線が、いつもどおりの明るい子供のものになった事に、自覚以上に安堵しつつも富松が本当に疲れたように嘆息して見せた。そんな会話に異を唱える迷子コンビ。



「俺は方向音痴じゃない」

「だが、あっちのほうが近道だろう?」


自覚なし方向音痴次屋の抗議と、自信満々に先ほどとはまた違う方向を指差す決断力のありすぎる方向音痴神崎。面白そうに見比べるきり丸の頭を撫でて癒しを見出す富松が、やはり何時もどおりに渾身のツッコミを入れた。



「自覚あろうがなかろうがお前は方向音痴なんだよ三之助!自覚があっても改善せずに突っ走るならお前も同罪だぞ左門!!いい加減にはた迷惑な迷子癖を治せお前ら!俺はお前らの保護者じゃねーんだぞ!!」


「「作兵衛ー、そんなに怒るなよ」」

「誰が怒らせとるかー!!」

「あははははは!先輩達って見てて楽しいっすよね!!」



ボケ二人に突っ込み一人。おかしい、比率が釣り合わない・・・ってか、何でこうなんだこいつらはぁ・・・・!!と諦めが多分に混じった怒りを込めて叫べば、傍らのきり丸が本当に楽しげに笑い声を上げる。その声に、まあいいか・・・と一つ嘆息して、改めて縄を引きつつきり丸の手を引いた。



「あーもう、本当に・・・いや、もういい・・・・・じゃ、気を取り直して行くぞお前ら!!くれぐれも縄を千切って逸れるんじゃねぇぞ!!きり丸、最初はどこ行くんだ?」


「へへへ!じゃあ、最初は馴染みのお家で子守しながら洗濯と掃除して、昼過ぎからうどん屋、その後甘味屋でお運び、夕方にはペットの散歩して・・・」


「お前・・・・それはまた・・・」


富松達の漫才を見て肩の力を抜いたきり丸が、楽しげに予定を羅列する。覚悟はしてたが、予想以上だったハードスケジュールに些か引きつった表情で富松が笑って、まずは、と足を速めた。



「まあ、良いさ。じゃー行くか。」

「はーい!!よろしくお願いしまーす!!」

「おお」

「よし!任せろ!」



満面の笑みを浮かべたきり丸に、嬉しげに笑った富松達が其々返事を返す。
忙しくなるだろう今日一日を思って、三年生三人は、楽しげに笑った。













裏裏山できり丸が倒れた後。黙々と子供を背負って歩いた三人は、学園に帰った後もしばらく黙って其々考え込んでいた。この戦乱の世で、戦災孤児など珍しくもないのは事実だ。だが、名門と謳われる忍術学園はではあまり馴染みのない存在でもあった。なぜなら、この学園は名門、と讃えられるだけあって優秀な忍を育成するための環境が整えられ、知る人ぞ知る優秀な忍を教師に抱えた学校だが、その内実を整えるために必要な費用も比例して巨額で、つまりは学費も比例して高額になる。要は、忍術学園に在籍する生徒は、大多数が裕福な家に生まれ育った者が占めるのだ。多少家格が劣る身分のものでも、学費を工面できる程度には充実した家計の家の出である。

・・・・・その中で、天涯孤独の身で、己が才覚一つでこの学園に在籍するために必要な金額を稼いでいるきり丸。その境遇はある程度噂等で聞いていたが、今日のきり丸との会話で、それがただの「知った積り」でしかなかったことを思い知ったのだ。

同情か、と言われれば完全な否定は出来ない。
だがそれはきり丸に対する侮辱だろうとも理解している。
きっときり丸は己の境遇を怨んでも他者を僻んでもも居ない。
そんな事は、普段のきり丸の顔を見かけたことのあるものならば容易く予想しえることだった。

けれど三人は考える。

風邪をひいて高熱を出しても、保健室に行く事を思いつかず自力で薬草を採りにいったきり丸。富松が保健室に行け、と言って始めて、治療を請いに学園施設を利用する、という事に思い至ったようだった。入学して日が浅いとは言え、まさか保健室の存在を知らなかったわけはない。入学して最初に行われる説明で各施設の見学もメニューに含まれていたのだから。しかもきり丸の親友は保健委員だ。生徒が有事の際には保健室を利用している事を知っていたはずだろう。それでも。


「あいつ、「自分も」って言ったよな。それってさ」

「・・・・・まるで、自分には与えられないのか当たり前、だったってことだろうな。何でも自力で手に入れるのが当然過ぎて、誰かに頼るってことが思い浮かばなかったわけだ。」


次屋の言葉を引き継いで富松が言う。

孤児である、という事は、庇護する両親や親類が居ないという事だ。
例えば、町中で寒さに震えたとする。或いは空腹を感じたとする。
両親と一緒に居る子供ならば、母親乃至は父親が暖かい着物を調達したり食事を用意したりするだろう。
けれど、保護者の存在しない者は、防寒の為の上着や食欲を満たすための食事が必要だと感じたならば、自力で用意できなければ決して手には入らない。

きり丸にとってはそれが当たり前の事で、体調を崩したからと、誰かに頼る事など、きっと想定の範囲外だったのだ。だから、今までどおりに、必要だと判断した薬草を、あんな高熱を抱えたまま採取しに裏裏山にまでやってきた。他の生徒が学園の施設の恩恵に与っているのを見ていても、それが自分も享受しても良いものだという認識がなかったのだろう。今まで、市井で暮らしていた時に、そうだったように。



「偉いな!!尊敬する!!」

「左門、あのな・・」


硬い表情で会話する次屋と富松の横で、神埼が突然叫んだ。
突拍子もない言葉に肩を落した富松が言いかけるのを遮って神崎は続けた。



「だって凄いじゃないか!!私が一年生の時に同じ事をしろと言われてもきっと無理だ!!
ああやって、独力で学費や生活費まで用立ててるんだろう。そんな事今の私だって難しいぞ。
 自分に出来ない事をやり遂げた相手を尊敬するのは普通だろう。」



いっそ清清しいくらいに快活に言い切った神崎の顔を、ぽかん、と見つめた富松の横で、小さく噴出す声が聞こえた。



「そっか、そうだな。俺も、きり丸を尊敬する。凄いよ、あんなに小さいのに」


淡々とした口調はかわらないまま、それでも先ほどまでの暗い硬さが消えた声で神崎の言葉に同意する次屋。軽く肯いて天上を見上げる。



「そう、か。・・・そうだな。俺も、きり丸は凄い奴だと、思うよ。」


そんな次屋と神崎を見比べた富松は、ふっと笑って、同じように笑いながら肯いた。



「だよな!!だからな!今度、きり丸のアルバイト手伝おう!!」

「「は?」」


またもや神埼が元気に言い切る。



「私はきり丸を尊敬してる。尊敬する相手の役には立ちたいじゃないか。だから、アルバイトを手伝うんだ!!それに、きり丸ともっと仲良くなりたいぞ!!これからは学園内でも会った時もうちょっと話とかもしてみたいな!!」


同室二人を置いてきぼりに、楽しげにこれからの予定を語る神崎の表情は、まれに見るほど輝いている。


「そりゃ、いい考えだな。俺もそうしよう。」

「は、え?お前ら、ちょっと」



やっぱり先に復活した次屋が神崎の提案に同意して、心なし楽しげな表情を浮かべはじめる。戸惑った富松は曖昧に呼びかける。



「な、作兵衛も一緒に行こう!!きっときり丸と仲良くなれたらもっと楽しいぞ!!」

「左門、あのな・・」

「そうだな。あいつあんな熱で裏裏山まで薬草採りなんてしに来るくらいだし、根性もあるぞ。いっそ体育委員に誘ってみるのはどうだろう」

「それだけはやめてやれ!!」


次屋が思いついたように零した独り言には反射的に制止の言葉を投げつけて、脱力した富松。


「作兵衛?」

「作?」


「・・・・あーもう!わかったよ!!どうせお前らだけじゃきり丸のところまでたどり着けねぇだろうが!!付き合ってやるさ!!・・・・・・それに、俺も、きり丸と、・・仲良く、なってみたい、し。」



常と変わらない表情で当たり前の様に名を呼ぶ二人に、少しだけ虚勢を張って顔を逸らしつつ富松が呟いた。最後の方は、本当に恥ずかしそうに語尾が消えかかったが、勿論聞き取っていた二人は嬉しげな雰囲気を振り撒いて楽しげに会話を展開し始める。とりあえず、次の休日には朝からきり丸を尋ねて、一緒にバイトの手伝いに行く事は決定らしい。


「あーもう!・・・・・・・まずは、お見舞い、が妥当か、」



ぼそっと、呟いた富松の表情も、会話を続ける二人に劣らず楽しげに笑っていた。












+++++




というかですね、今まで本当に一人で生きてきたきり丸にとって、自分の面倒を自分だけでみる、ってのが当たり前すぎて、誰かに助力を願うって思考が働かない、ってこともあるかなー、と思ったんですよね。
で、一般庶民にとっては貴重な薬なんて気軽に使える物じゃなかったはずで、特に自力で糊口をしのいでた孤児のきり丸が、有事の際に自由に薬なんて使ってたはずがないです。そんな時どうしたかなー?と考えれば、・・・自給自足ってことで、直接薬草採取だろうな、やっぱり。で、それが当然の生活してたきり丸が、無事入学できたからと、最初から学園の施設備品を利用したりとか・・・・難しかったりしたんじゃないか、とか考えたんですよ。授業で使うんなら周りも一緒にいるから兎も角、一人のときに必要になったとして、素直に頼ったりとか、多分出来ないんじゃないかと。


で、そんなきり丸が、誰かにバイト手伝いを気軽に頼んだりできるようなきっかけがなんかあったりするんじゃないかな。とか。こうやって少しずつは組以外の人たちにも頼る事覚えていくとかあったら、微笑ましいなーとか。


・・・そんな感じの小話です。 

 

 

 

 

 

 

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