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eoe後使徒化+女体化したシンジ(=碇レンorシオン)が別世界にトリップした設定のクロスネタがメインの二次創作サイトです。碇レン最愛で最強。クロス先のキャラとのCPが基本。 現時点で単品で取り扱いがあるのは深淵と鰤とrkrn。深淵と鰤は主人公総受け、rkrnはきり丸中心です。
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*鰤映画地獄編その後を全力で捏造

*コクトー×一護です。

*コクトーに物凄い夢を見て善意に解釈しまくりました。

*一護が少女漫画顔負けの乙女になってます。

*地獄の構造その他を、ちょっと意訳含んで微妙に捏造(誤解も含まれてる可能性もあります。すみません、見ない振りしてください・・・)

*両思いで未来への希望はあるはずなんですが、何だか一見死にわかれ見たいな結末になってしまいました・・・・・・。本当すいません。

*以上を踏まえた上でそれでも構わない、という方だけご覧ください。









 

ジャラリ

重なり合う金属が擦れる音が、重々しく響く。
 

シャラリ

金属と金属がぶつかり合って涼やかな音を奏でる。


ジャラ

重たい金属同士がぶつかる時特有の鈍い摩擦音が鳴る。


チリン

重なり合った金属がぶつかって、まるで鈴の様に軽やかな余韻を響かせた。

 

 


深い深い澱んだ闇の中で、唯一の音源であるそれを、飽きることなく揺らす。
光が無く、気配も無く、どろり、と澱んだ闇の底。
しん、と静まるその場所で、たった一つ五感に触れさせる事ができるそれ。


幾重も幾重も重なりあって、己が身を戒める、赤黒い鎖。

何処からともなく幾本も幾本も伸びて、四肢をこの世界に繋ぎとめる拘束具。


それを、断ち切る事を夢見ていた。


どんな手を使っても。
何を利用しても。


それだけを、ただひたすらに望んでいた。



そうすれば、


・・・・・そうすれば?

 

 



「は、・・・・・は、はははは、はーはっはっはっはっ !!!!」

 


鼓膜に突き刺さるような静寂の中、唐突に狂った哄笑が響いた。

 

 


「はははははは!・・・・・・は、はははは、は、ぁ、・・・・馬鹿か、俺は、」

 

唐突な哄笑は、また唐突に力を失くして消える。そして、落とされた呟き。

 


「馬鹿だな、くだらな過ぎる。
 ・・・・・此処、から、逃げられるなんて・・・・逃げ出せさえすれば、叶うなんて、」

 

その声は虚ろなまでに軽く、朗らかと言える程に明るい声音だからこそ、

 

「本気で、信じてたのかねぇ?・・・俺ぁ」

 

簡単にひび割れて、砕け散るように闇の底に呑まれて消えた。

 


そして再び戒めの鎖だけが音源となる。

 


鎖に囚われた青年は、闇しか映さぬ瞳を瞼の裏に隠して、上を仰いだ。

瞳をどれ程凝らしても、視界を埋めるのは光源の存在しない澱んだ空間だけだ。

だったら、己が内に刻まれた光を見れば良いと思った。



--------鮮やかに鮮やかに、記憶に刻み付けられた、太陽の、化身を。



それだけが、この世界----罪人が堕とされる地獄という世界。
その最下層に叩き落とされ、身動きも許されぬ程に厳重に繋ぎとめられた青年。


瞼の裏に再生される、鮮やかな少年の記憶だけが、コクト-にたったひとつだけ残された、ぬくもりの欠片だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を、見ていた。


最近ずっと、眠ると必ず見る夢だ。
数日前から、睡魔に身を委ねると、何時も同じ光景を見るようになった。


数日前・・・・地獄の咎人の策略に巻き込まれ、地獄という世界に触れた。
激しい戦いの末、何とか策略を砕いて、戦いに巻き込まれた妹や助けに来てくれた友人達も再び日常に帰る事が出来た。そして取り戻した当たり前の平和の中で、一護は、ずっと、その夢を見ていた。

 

 

闇がある。
 

上下左右も判別出来ぬほどに深い、微かな光源すら存在しない深い闇の中に立っている。

けれど、足元にはさらさらと乾いた砂の感触があって、重々しいけれど決して厭わしくはない闇は不思議とぬくもりさえ感じた。方向は全く掴めないはずなのに、一護には何となく進むべき方向が分かっている。


音も無く動きもない空間だけれど、恐怖も不安も抱かなかった。
これは夢だ、という自覚が、そんな自分に違和感を抱かせなかった。

何処まで自分は歩くんだろう、と思っても直ぐにそんな疑問も消える。
ただゆっくりと足元で鳴る砂の擦れる音だけを聞いてまっすぐ歩いた。


いつもは、此処で目が覚める。


同じ夢ばかりを見ることへの疑問はあるが、内容はただ真っ暗な世界を只管歩く、という他愛もないものだ。
別段不安も無かったし、誰かに相談などしようとも思わなかった。


そして今日も同じ夢の中に居る。

 


さくり、と足元で砂がなる。
ふわり、と風もない闇の世界で、己の動いた分だけ、空気が流れる。
しん、と静寂が支配するこの場所で、自身の呼吸音と足音だけが鼓膜を揺らす。

 


「・・・・・此処は一体何処だってんだ」

 


不安も恐怖も無かったが、只管歩くだけの世界は些か退屈ではあった。
どうせ夢だという理性が、意味はないと囁くが、独り言の一つ二つ零してしまうのも仕方がないことだった。

 


「・・・・此処は、一体何なんだろうなぁ」

 


真っ直ぐ歩きながら、ぼんやりと視線を巡らせる。映るのは真っ暗な闇だけだというのに、自分自身の姿はきちんと視認できるのが非現実的で、ますます夢の中なのだという認識を強くした。


 

「・・・此処は、」



ぼんやりと呟きながら、穏やかに凪いだ己の心に一護は安堵したように吐息を落とす。
この場所は、とても静かで、深い闇に守られるように自身の心も静まってくれるからだ。



それは翻って、目覚めている時の一護の心は、穏やかさとは遠い状態だという事だ。



ここ数日、現実世界での一護は出来限り空白の時間を作らない事に腐心していた。
例えば友人との会話。例えば学校の課題。例えば妹達との触れ合いやルキアたちとのじゃれ合い。勿論死神代行としての役目も果たすし、これからの事についての話し合いにも積極的に参加した。誰かと共に過ごさない時は、雑誌や小説を丹念に読み込むなり、CDを熱心に聴くなり、とにかく意識に空白を作りたがらなかった。


なぜならば、一瞬でも空白が出来ると、必ず甦る残像があるからだ。
 

雪白の髪。深い紫色の瞳。
頭一つ高い分必ず見上げなければならなかった大柄な体躯。
顔の半分を覆った黒い布。
飄々とした、けれど軽薄ではなかった口調。
地獄の下層部へと向かう自分を何くれと無く気遣ってくれた、彼の掌。
転んだりしないように、と自分を支えてくれた腕の力強さ。
狙われ続ける自分を庇ってくれた広い背中。
飄々とした笑みを一瞬崩した、その時口にした言葉に込められた真剣な想い。
一護、と呼ぶ、彼の声が・・・・、

 


「思い、出すな・・!」

 



甦ると同時に、鋭い痛みも思い出す。
それはあの時、背後から貫かれた刃の傷を記憶に甦らせてしまうからなのだと思い込もうとする。


本当はもっと奥。
痛みを感じるのは、胸の奥の、決して他者には触れることの叶わない場所。
その場所が、鋭く激しく痛み、鈍く熱を放ち続けているのだと、気づきたくはなかった。


だって、気づいてしまっても、どうにもならない。


気づいてしまったら、もう、戻れないのだと分かっているから。


だから、必死に目を逸らし続けるのだ。

 



「・・・・・あれ、何だ?」

 


そんな、現実世界では消せない葛藤を抱え続けていた一護にとって、この夢は酷く優しかった。

だから尚更些細な疑問すら捨て去って、ただ闇の中で過ごし続けた。
そんな風に今日も目覚めるのだろう、と考えていた一護の目に、留まるものがあった。

 


「・・・なんだ?赤い、」

 


今まで静寂と暗闇しか存在しなかった世界に、ぽつん、と一つ異物が混じった。
まだまだ遠くてよく見えないが、何か赤い塊が一護の目に映った。
光もないのに何故色が分かるのかという疑問は抱かない。
何があっても、これは夢なのだという認識は崩れることなく。


だから、穏やかな凪を揺らした、その原因を確かめようと、好奇心の赴くままに地を蹴った。
砂地にも関わらず、決して足をとられること無く軽やかに足は動いた。
それなりの距離を走ったというのに、呼吸も乱れなかった。

けれど


 


「赤い、・・・鎖?あれは」

 


段々と、はっきりと見えてきたもの。
それが何なのか、近づいていく内に気づく。


気づくと同時に、体から汗が噴出した。
軽かった筈の足は徐々に重くなり、落ち着いていた呼吸が僅かに乱れる。


それが長距離を走ったが故の疲労からのものではないと、誰より一護自身が理解していた。

重くぎこちない動きで、それでも近づく身体は止まらなかった。
ゆっくりと、視界を埋めていく、赤。


それは、虚空から生えた赤い鎖だった。
幾本も幾本も重なって、まるで蛹の様な塊を成している。
ジャラリ、シャラリ、ジャラ、チリン、と、重く軽く、様々な音階の金属音を鳴らして、静寂を僅かに破る。


その中心に、囚われているのは

 


「コク、トー・・・・?」

 


音になるかならないかの、微かな声で一護が呼んだ。

 


「・・・・おやぁ?等々俺も限界なのかねぇ。」

 


仰向いて目を閉じていた青年が身じろいだ。
雪白の髪が揺れて喉を晒していた首が緩慢に俯く。
ゆっくりと瞼が持ち上げられるにつれて露になっていく深い紫色の瞳。
澱んだ光を湛えていたその瞳が一護を認めた瞬間驚愕に見開かれる。
そして青年は端正な顔を皮肉気に歪めると、自嘲するようにはき捨てた。

 

「コクトー、なのか?」


「なんだ、最近の幻ってのは口聞くのかよ。
 それともこれが世に言う走馬灯か?
 散々死にまくって置いて今更みるたぁ思わなかったぜ」


 

震える声で確認する一護に、コクトーは自嘲を深くして嘆息した。
遂に限界を迎えた自分が作り出した幻と会話しているのだと信じきっているようだ。
 


「コクトー?何で、此処は俺の夢の中じゃ・・・」


「おいおい、なぁに泣きそうな面してんだぁ?
 折角の幻なんだから笑ってくれりゃぁいいのによぉ。」


「コク、」



一護のほうも、今までただの夢だと思っていた場所で、消したくて消したくて、けれど決して消えてくれなかった残像の持ち主と対面してしまった動揺で混乱している。繋がらない言葉をお互いに好き勝手に吐き出していく。


 

「あーあ、けどまぁ、こんなにはっきりした姿を見れたんなら、どんな表情でも良いかぁ。」


「こくとー・・」


「それに、純粋に笑った顔なんて見たことねぇしなぁ。仕方ねぇな、こればっかりは。」



目頭が熱くて、歪む視界が、自分は泣いているのだと自覚させた。
けれど必死に震える声を抑えようとするせいで、どこか幼い発音になった。

そんな己の醜態を必死に宥めようとする一護を余所に、残念そうに笑って目を伏せたコクトー。



コクトーの脳裏に、一度死ぬことで動揺を誘って背後から刃を貫通させた幼い背中が甦る。
痛みと混乱と驚愕に固まって、震える首を必死に巡らせた一護の琥珀色の瞳。


そこに浮かぶ感情が己に齎したのは、興奮だろうか歓喜だろうか。
憐憫だったか安堵だったか。侮蔑だったか落胆だったか。
それともまさか、後悔だったとでもいうのだろうか?


その時既に、今の己と同じ感情を抱いていたと、自覚するのか?


今更。


コクトーが一護にしたことが覆ることはなく、一護がコクトーに向けるだろう怒りも憎悪も嫌悪も、何もかもが当然の報いだと、誰よりも理解しているのに。それでも、今のコクトーが、一護の純粋に笑った顔を見たいと思う、その感情は本心からのものだった。

救いようがない、と自嘲しても。
全ての機会を捨てた後なのにと後悔しても。


それでも、コクトーは、一護の笑顔が欲しかった。

一護が自分に笑いかけてくれる、そんな夢想を捨てきれないのだ。

 



馬鹿正直に出会ったばかりのコクトーを信じきっていた一護を、嘲った自分の言葉は本心からのものだ。


元々地獄に落とされるような咎人だ。
地獄に落とされるのは、生前許されざる凶悪な罪を犯した者だけなのだ。例えどんなに善人面していようと、その本質は最底辺の人間であると、理解していて然るべきだろう。なのに、一護は最初こそ必要に駆られたが為にしぶしぶ共闘を決めたが、少し優しくしてやるとあっさりと心を開いて見せたのだ。
 

それを愚かと言わずになんと言えというのだ。
嘲笑が湧き上がり、歪む口元を隠すのに苦労した。


けれど同時に、そんな愚かさを何処かくすぐったく感じてはいなかったか。
躊躇いつつも伸ばされた幼い掌が、己の腕に触れた時、胸の奥が震えたのは何故だ。
必死に追いかけてくる琥珀の瞳に、ずっと見つめられたい、とただの一度も考えなかったとでも。



感情を表すことを恥ずかしく思う性質なのか、態と眉間に皺を寄せた気難しい顔をしつつも、その態度も声音も過ぎるほどに素直だった。愚かなほどに澄んだ瞳は、どこまでも直向で。くるくると移り変わる感情を映すのを見て、まるで万華鏡でも覗いているような心地になった。


そのたびに湧き上がる感情は、嘲笑と侮蔑なのだと、無理に思い込んでいた部分はなかったか。
傷ついて地に伏せる一護を足蹴にしながら笑った己が、一護の瞳にどのように映っているのかと、そう考えた瞬間、胸の奥が引き攣れた気がしたのは何故だ。
己の望みを叶えるために、一護の力を引き出そうと挑発しながら、絶望と怒りに染まった琥珀色が惜しいと、一瞬でも考えはしなかったか。
強大な力に呑まれていく一護に、その手に持つ刃が邪魔だと、そう思った事実が自分の本心を表しては居なかったか。


あの手には、もっと優しくて綺麗なものが似合うのに、と。


まるで演じていた時のコクトーが、大事な妹に贈り物をする時にでも浮かべるような思考が、脳裏を過ぎりはしなかったか。


今更。今更だ。


それでも、コクトーは考えてしまう。


この場所には何もない。

光がないから闇だと判じただけで、本当は周りを取り巻くのは闇ですらないのだ。
そんな純粋なものではなく、地獄に落とされた咎人が、消滅の瞬間に残す残滓が溜まって凝った「何か」でしかない。
赤黒い戒めの鎖が奏でる音は、様々な音階を重ねてまるで綺麗な楽器を爪弾いたような気分を妄想させる。
けれどこれは所詮己の罪と妄執と怨念と、そんな「負」の塊が凝固したものだ。そんなものが出す音が、綺麗なもので在るはずもなく、本来形を取る事のない「負」の擬態が出す音が、存在していると言えるわけもない。


だから、コクトーは考えてしまうのだ。
 

たった一つ、己の内に刻まれた、鮮やかな少年の、綺麗な笑顔を。

それが己に向けられたなら、全てが綺麗なものになるような気すらするのに、と。



「はは」



愚かに過ぎる、これではあの時の一護を笑えない。
今の己は、会ったばかりの咎人をあっさりと身の内に抱え込んだ幼稚な少年にも劣らない大馬鹿者だ。

いや、一護のその愚かさは、彼自身の直向な純粋さがあの場合では欠点となってしまっただけのことだった。


比べて自分は。



伏せていた視線を上げて、一護の姿を焼き付ける様に凝視する。
自分への嘲笑は消えなかったが、真っ直ぐ一護の全身を見つめた。
皮肉気に歪んだままの表情で、目の前の幻に向かって、素直な感情を吐露して見せた。
これで最後だというのなら、少しくらい正直に全てを吐き出してみてもいいだろうと思ったのだ。
 

それを聞いてくれるのが、一護の幻だというのなら、これ以上など望むべくもないだろう。


この幻が、地獄が咎人を絶望させるために造り上げた虚構でも構わなかった。

 



「はははは、・・・なあ、一護。」


「な、んだよ?」


「悪かったな。俺の我侭につき合わせて。」


「我侭?」


「そう、我侭だ。・・・地獄から開放されたいというのは嘘じゃない。何処かに居るはずの妹にもう一度会いたいと思ったのも本当だ。 けどな、そんな願いが叶うわけがないんだよ。」


「なんで、だよ」

 



泣くまいと必死に眉間に力を入れて涙を飲み込む一護の表情は、まるで小さな子供の様で、コクトーの口元が優しく綻ぶ。その表情を見た一護が目を見張って視線を揺らす。余りに素直な一護の感情表現を見て、穏やかになっていく己の心を自覚する。
 

ああ、・・・本当に馬鹿なのは俺の方だ。

 


「だって、なぁ。・・・・もう、俺は、あんなに大事だった妹の名前が、思い出せない。」


「な、ん」


「顔も、年も、・・・・俺に似ていたか似ていなかったか。髪の色は同じだったのか。
 目の色は?身長は。体つきは。どうして妹だけしか家族が居なかったんだ。
 妹が死んだのは、どの季節だった。妹は何で殺されたんだ。

 ・・・・妹を、俺はなんて呼んでたんだ?」


「そんな・・・」


「ああ、お前がそんな顔をするなよ。
 ・・ちったぁ考えれば直ぐに気づいた筈のことだったんだからよぉ」


「だって、」

 


痛みを堪えるように顰められた眉に、涙の膜が張った琥珀色。無意識にだろう気遣うように伸ばされかけた一護の掌が、コクトーを戒める鎖に触れてしまう前に言葉を続けた。


 

「そうだろう?此処は地獄だぜぇ?
 俺たち咎人は、地獄の番人たちに何度も何度も殺される。
 心が砕かれ、魂が磨耗して消滅するまで、何度もだ。それが罰なんだから当然だな。」


「けど!」


「そうやって、砕かれ続けて魂を磨耗させていくはずの咎人が己を保たせる方法は一つ。
 ・・・けどなぁ、一護。考えても見ろよ。俺は何度殺されても戦う意思を捨てなかった。


 ・・・・その代わりに、何が消えていっているのか。もっと早く気づくべきだったんだ。」



「それは、まさか」



「妹を殺した奴らをなぶり殺しにした事に後悔はない。
もう一度その場面に立ち会っても、迷わず俺は同じ事をする。

 ・・・・それ程に妹を失ったことを、奪われたことを、怒り恨み憎悪した。」



それは偽りのないコクトーの本心だ。
コクトーはあまり物事に執着しない。基本的に淡白で去るものは追わない性質だ。
地獄に落ちてから性格が悪化したか変質したかは知らないが、基本的な質が変わっているとは考えにくい。だから多分、大抵のものに対する淡白さは生来のものじゃないかと思う。けれど、その分、一度己の囲いに入れたモノへの執着は凄まじく、傾ける思いは深く激しい。そして、目的を達するために手段を選ばず実行しきる冷酷さと残忍さも変わらないのだろう。

・・・・ならば、「地獄からの解放」という目的の為に、あらゆるものを利用した自分は、「妹を守る」というかつての至上命題を奪われた事に怒り、奪った相手を殺してやると決めた時もその目的を果たすために、一護を利用した時と同じように行動したはずだ。


 

「きっと俺は同じ事を繰り返す。それだけ妹を殺した奴らを憎んだ。
 ・・・・それだけ妹が大切だった。

 ・・・・・・けど、その大切だと思っていた妹は、どんな声で俺を呼んだんだ。」

 


「コクトー・・・」

 


ゆるゆると目を見張った一護が、呆然とコクトーを見上げる。
一護の濡れた瞳を見下ろしたコクトーは反射的に、ほろり、と流れた涙に指を伸ばそうとして、じゃらり、となった鎖に我に返る。赤黒い鎖に負けぬほどに赤く染まっている掌を握りこむ。・・今更触れる資格があるとでも思っているのか。


 

「だからな、例え自由になれてても、俺がもう一度妹に会えるわけなんてなかったんだ。
 ・・・・名前も顔も何一つ思い出せない相手に、どうやって会えるってんだ?」

 


一つ深呼吸をして、苛立ちそうになった心を沈める。
慎重に声音を抑制して穏やかに言葉を続けた。

たとえ目の前の一護が幻でも、最後くらいはまともな自分の姿を見せておきたかった。

 



「だから、・・・あれは俺の我侭なんだよ。
解放されたところで無意味だ。けど、ただ心を折って消滅するのだけは耐えられない。


・・・・・きっかけ、が欲しかったんだ。


俺は多分、解放が無意味だと知っていて、それでも最後まで諦めずに抗ったのだという事実が欲しかった。

そのために、お前を利用した。
お前の力を利用しても尚、解放は叶わない望みなのだと、そんな事実が欲しかっただけだ。


・・・・だから、悪かったな。一護。」


 

「コク、」



ほろほろ、ほろほろ、と綺麗な涙が落ちる。
暗い闇の中で、鮮やかに浮かび上がる夕日色の少年だけが美しかった。
この澱んだ世界で、一護の周りだけが清涼な気配を放っていた。
本当に、こいつは何にでも、地獄にすら好かれているのだと考えると、可笑しくなって笑いがこみ上げた。

 




「ああ、お前が俺の作った幻覚でも、走馬灯の映像でも、地獄が見せた虚構でもいいや。
 もう一度で良いから、お前に会っておきたかった。
 もう一度で良いから、お前の声を聞きたかったんだ。」


 


そう言って、コクトーは穏やかに笑った。
それは最初一護に本性を見せる前ですら見せたことの無かった、優しい笑みだった。
深い紫色の瞳が、一護を見つめている。
淡々と思いを吐露したコクトーは、満足そうに一護を見つめて微笑む。
コクトーが、幻だと信じる一護を。

 

「コクトー」


 

一護は、涙に濡れた瞳をぐしぐしと掌で擦った。震えそうになる声を必死に宥める。


この場所が己の夢ではない事に、もう気づいていた。
何故こんなことが起きているのかは分からないが、一護は今、コクトーを押し込めた地獄の最下層に居るのだ。そう理解しても尚、周りにある筈の瘴気は一護を苛むことなく、満ちている筈の地獄の意思--罪人を裁け、という重々しい空気は感じられない。
 

代わりに、掌に宿った力に気づく。
光のない闇の中。何故か一護とコクトーと地獄の鎖だけはお互いの瞳に映っている。

だけど、それ以外はやっぱり見えない様になっているらしい。
だから、一護はいつの間にか片手に握り締められていた己の愛刀を静かに構えた。
コクトーからは、一護が片手を不自然に持ち上げたように見えたかもしれない。


 

「コクトー、俺、も、アンタに、もう一度、会いたかった。」

 


抑えても抑えても視界を塞ごうとする涙を飲み込むために深く息を吸い込んで、乱れた呼気に途切れさえながら一護は言った。

もう、気づかない振りは出来ない。
目を逸らし続けて否定し続けた気持ちを、もう、押さえ込むのは無理だった。
 

だって、こんなに胸の奥が熱いのだ。


油断すれば意識を占拠しようとする残像が齎すのは、痛みだけではなかった。
思い出すたびに、辛くて悲しくて悔しかった。
けれど、あたたかくて嬉しくて、幸せだとも、思ってしまった。
 

一護を利用するための演技だったと知らされた後も、コクトーが向けてくれたからりとした笑顔は暖かくて、朱蓮の部下達の攻撃から庇われた時に視界を占領した広い背中が嬉しくて、薄暗い階段で転ばぬようにと差し伸べられた腕に支えられた時の事を思い出すだけで幸せだと思ってしまうのだ。


自分でも何度も何度も否定した。
あれはただの演技で、自分はコクトーにとってただ目的を叶える為に必要な駒だったのだと。コクトーは遊子を誘拐して命を危険に晒して、ルキアや恋次や石田を傷つけた敵なのだと言い聞かせた。
 

それでも駄目なのだ。どうあっても一護はコクトーの残像を振り払えない。

もう一度、あの声で名前を呼ばれたくて、大きな掌に触れたくて、広い背中を見て歩きたいと、そう思ってしまった。


「一つを護る」という意味を込められた己の名前を誇りに思っている。
なのに、逆に護られて、一人だけ生き残った自分を許せなかった。
だから、今度こそ自分が護る立場に立って見せるのだと決めていた。
それは、家族からその中心だった母を奪った自分への罰で贖罪でもあった。
ルキアに貰った死神の力で、もっと多くの人を護れるようになった事を後悔等していない。
戦う力があるのなら、その力でもって皆を護ろうと思っている。


けれど、コクトーは、例え本性を隠した時提示した様に共闘する相手へのフォローとしてだけでも、本当の目的を叶える為の演技の為であっても、地獄の下層部へ向かう道中、ずっと一護を護ってくれていた。その時、自分は確かに嬉しい、と感じてしまったのだ。
 

何くれとなく気遣ってくれるたびに、朱蓮たちからの攻撃から庇われた時に、申し訳なさと己の無力さへの悔しさは確かに大きく心を占めた。

同時に、コクトーに護られているのだという事実に、喜びを感じてしまった自分が居るのだ。
あの広い背中に、触れてもたれても許されるのではないか、と夢想してしまった自分を恥じた。

だから、コクトーが裏切った時、悲しみと驚愕と信じたくないという気持ちが最も大きかったが、少しだけ安堵も感じてしまった。あれが全て演技だったなら、自分のこの気持ちも全て無かったことに出来る、と。


なのに、地獄での騒動が終わって日常に帰っても、決して消えない残像に悩み続けた。
振り払っても消えず、抑え込んでも湧き上がる想い。



ああ、そうだ。もう、認めてしまえ。

 


「俺は、コクトー。アンタが、好きだ。
 好きだから、もう一度、会いたかった。俺の名前を呼んで欲しかったんだ。」


 

涙でぐしゃぐしゃの顔で歪に笑った。
穏やかさを湛えていたコクトーの表情が、驚愕に彩られているのをみて、可笑しさに笑う。
 

この場所での邂逅が、どんな奇跡によるものかなんて分からなくて良い。


けど、今の自分を抑止する力が働かないならば、許されているのだと判断してしまえ。

 


 


「だから、コクトー。お願いだ。
 ・・・自由になったなら、もう地獄に落ちるようなことはしないと約束してくれ。

 俺は、光の下で笑うコクトーが見たい。これは俺の我侭だ。けれど、どうか。」

 


 

泣き顔はみっともなく歪んでいるだろう。
声も震えたままで、くぐもっていて聞き取りづらかったかもしれない。

 


 

「・・・・大丈夫だ。コクトーは妹さんを忘れたりしていない。
 今はちょっと思い出しにくくなっているだけだ。

・・・・自由になれたら、きっと思い出せるよ。」


 

それでも精一杯綺麗に笑ってみせた一護が、斬月を振り上げる。

 



「だから、コクトー。」

 

 

斬月を、振り下ろす。
 

パキン、と軽い音を立てて、呆気なく砕け散る鎖がまるで赤い花吹雪の様にあたりに散った。
ざらざらとさらさらと、風もないのに崩れ散って、消え去っていく。
 

呆然と目を見張っているコクトーに再び斬月を構える。

 



「・・どうか、幸せに、なってくれ」


 

斬魄刀に力を込めた。
 

死神としての最も基本的な任務。

そして一番大切な仕事だ。

 



「アンタを、魂葬する。

 ・・・尸魂界は広くて、死んだ時代が違うからもしかしたらもう輪廻に戻ってしまっているかもしれない。それでも、また、会える可能性も、ある。・・・・・探してみろよ。大切な、妹さんなんだろ?

きっと、コクトーを、待ってるよ」


 

淡く澄んだ光がコクトーを包む。
まるで一護そのもののような優しい力だ。


 

「一護・・・・俺は、」



すう、っと体が透け始めた。
恐怖はない。これは消滅ではないと、確信しているからだ。

ずっと幻だと思っていた一護を凝視する。

年相応に幼い顔に、美しい微笑を浮かべて、コクトーを見ている。

 


「さようなら。・・・コクトーに会えて、俺は嬉しかった。」

 


「いち、!」

 



慈愛に満ちた笑みで告げられた一護の言葉。
己の所業を思えば、これは都合の良い夢だと思うのが普通だ。
だが、目の前の一護は本人だったのだと、今更気づいた。
もう殆ど消えかけている腕を慌てて伸ばす。
先ほどの懺悔の様に一方的ではなく、一護がくれた綺麗な言葉と綺麗な想いに、きちんと自分の想いも返すために。

 

「・・・ご、!お・・も、・・・・す、」


けれど、間に合わなかった。音にしたかった言葉は消え行くコクトーの声が伴わず、必死な表情だけを一護の視界に残して光に変わってしまう。リン、と微かな余韻を残して、その光がすうっと消えて行くのを、微笑を湛えたまま一護は見届けた。
 

ぱたぱたと、足元の砂に吸い込まれていく涙。
いつでも自分を助けてくれる斬月に感謝を伝えるように優しく刀身を撫でる。
 

段々と、この世界での感覚が希薄になっている事に気づく。

目覚めが近いのだ。 昨日までは少しだけ憂鬱だと思っていた瞬間なのに、今の一護はただ満足だった。


もう、この夢を見ることはないのだという確信がある。

だから、優しい闇で自分を慰撫してくれていた夢にも感謝を示すように、足元の砂地をそっとなでる。


 

「・・・・ありがとう。俺の願いを叶えてくれて」

 



そっと立ち上がると、囚われていたコクトーがしていたように目を閉じて上を仰ぐ。

 

ふわり、と体が軽くなって、視界を覆う闇が力を失くしていく。

 


「ありがとう」

 

 

 

そっと落とされた感謝の言葉だけを残して、一護の姿も光に溶けた。

 

 

 

 

 

風もなく気配もない深い闇のそこには色もぬくもりも存在しない。

鼓膜を突き刺すかのような静寂だけが支配する、深淵の底。

微かな光の残滓に赤い光を生んだ砂も、直ぐに闇に沈む。

 

 

 

 

そして、しずかなしずかな闇だけが残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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こんにちははじめまして。
暁と申します。
このサイトは、エヴァンゲリオンの主人公シンジを女体化させた=碇レンorシオンが最愛の二次創作サイトです。基本的にEOE後使徒化したレン(orシオン)が別世界にトリップした設定のお話が中心です。

本館ではちょっと出しにくい三重クロスとかの突飛なネタを投下するための別館です。
+で、エヴァとアビス以外のジャンル小ネタを書いていこうと思ってます。

サイトメインのクロスネタでは、当たり前のように碇レン(orシオン)だ別作品のキャラに愛されるお話中心です。皆様方のご嗜好に合わないときは、速やかにお帰りになって、このサイトの存在ごとお忘れください。
誹謗中傷批判等々は受け付けておりません。
どうか、ご了承ください。

ちなみに二次創作のサイト様でしたらリンクはフリーです。報告も要りませんのでご自由にどうぞ。
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