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*一護の能力が失われた後の尸魂界で
*日一前提
*日番谷隊長の後悔?(少し痛々しい仕様となっております)
*ちょっと死神勢力への批判表現が入ります。嫌な人は絶対見ないでください。
*一護はでてきません。ほぼ日番谷隊長独白。
*苦情批判は受け付けません。聞こえませんし聞きません。何読んでも平気!という方だけご覧ください。
滅多に翳る事のない尸魂界の空に、薄紅が舞う。
風が穏やかに草木を揺らし、空気が甘さを含んで柔らかく緩む。
忙しなく行きかう死神たちの歩みも、どこかゆったりと。
春だ。
「ま~つ~も~と~~~!!テメェ!どこ行ってやがった!!
今日提出の書類放ってサボリたぁいい度胸じゃねか!!
そんなに減給されてぇのか?!」
「やぁーだ、隊長そんなにカリカリしないで下さいよ。
ちゃんと休憩貰いますって言ったじゃないですか。」
「あぁ?!休憩ってのは出勤して一刻もしないうちにとって昼過ぎまで外ほっつき歩くこと言いやがんのかてめぇ!」
・・・麗らかな春の日差しからはかけ離れた十番隊にて、今日も今日とて隊長の怒声が響く。真冬を思わせる冷たい空気をものともせずに、のらりくらりと言い返す副隊長の声に更なる冷気が吹きすさぶ十番隊隊主室。そんな喧騒を余所に己の職務に励む三席以下十番隊隊員達。十番隊の日常風景だ。
「だって、これ、人気商品で午前中に売り切れちゃうんですよ。
毎年春にしか売らない限定品ですよ?!食べたくないんですか隊長。」
「なにが限定品だ?!んな菓子何ぞの為に二刻も無駄にしやがったのか?!誰が溜めた書類だと思ってやがる!」
副隊長の乱菊が可愛らしく口を尖らせる。成熟した女性がするには幼い仕草だが、屈託のない朗らかな性格の彼女には不思議と似合う。だが隊長である冬獅朗は胡乱気に視線を眇めるだけだ。その手に誇らしげに掲げられた雅な重箱は、老舗菓子屋の名が隅に刻まれている。確か貴族連中御用達の名店で、口の肥えた総隊長も愛用していると聞くが、だからなんだと思う冬獅朗。もともと菓子類にはそれほど興味がない事も相まって怒りのゲージが上がり続ける。年末程ではないにしろまだまだ忙しいこの時期に、たかが菓子の為に仕事を放った部下に対する苛立ちが、限界値を振り切りそうになる。
「だから、てめぇは・・・!!」
さわり
(まぁた、怒ってんのかよ冬獅朗!
あんまり怒鳴ってばっかりいると疲れるぜ?たまには外でてみろよ!
折角春なのに、此処だけ真冬みてぇじゃねぇか!)
「---っ!」
勢い良く振り返る。だがそこにあるのは、開け放たれた窓だけだ。
冬獅朗の髪を優しく撫でたのは柔らかな春の風。
聞こえるのは穏やかな葉擦れの音と小鳥の鳴き声。
どれ程目を凝らそうと、鮮やかな夕日色は、映らなかった。
耳に残る、外見相応の伸びやかな少年の声は、聞こえなかった。
「-----っ、・・・・仕事、しろ。松本。
机の上の山を片付けたら、午前中のサボりは多めに見てやる。」
声が震えなかったのは、我ながら上出来だと、思った。
表情はきちんと繕えていたはずだ。
誰が見ても、完璧な”十番隊隊長”の姿を保てていた筈だ。
ただ、最初の一声が、少しだけ掠れていたのが無様だと、思った。
そんな資格など、無いくせに?
「俺は昼をとってくる。それ以上サボったら減給するからな。」
「たい、・・・はぁい!了っ解しました~。いってらっしゃい」
何事か言いかけた乱菊が、迷うように目を伏せて、続けた言葉がいつものように砕けた物言いだった事に、自覚以上に安堵した。こんな時に、己の未熟さを思い知る。幾ら天才児だなどと持て囃されようと、結局自分はまだまだ先達には及ばない年少者でしかない。
そんな己から見てすら遥かに幼かった少年が成し遂げた偉業に思いを馳せて。
苦味だけを、かみ締める。
さわり、と柔らかな風がふく
瞬歩で駆けてたどり着いた瀞霊邸の端。
少しだけ高台になっている草原に寝転んで、空を見上げた。
樹齢が幾つかも分からない大木が心地の良い木陰を作り出すこの場所が、冬獅朗にとって気に入りの休憩場所だった。何か思い悩む事があったり、疲れて気が滅入ったりすると、この場所で一人ゆったりと身体を休めるのが気晴らしの方法の一つだった。
誰にも・・幼馴染の雛森にも教えたことのないこの場所で、只一人共に過ごした存在を思う。
「・・・・お前は、確かに、護ったな。・・・・一護。」
初めて、声に出して呼んだ。
藍染が捕縛されたと、戦いは終わったのだと、浦原喜助から報告を受けて。
・・・死神代行の黒崎一護が、その力の全てをもって、藍染を討ったのだと。
代償に、全ての霊力を失うのだと、知らされてから、一度も音に出来なかった名を、呼ぶ。
「一護、一護、一護、一護、、、いち、ご、・・・っ、一護!」
呼んでしまえば、止まらなかった。壊れた機械の様に一護の名だけを繰り返す。
既に三桁以上の年は重ねているというのに、未だに未成熟な幼い己の声が不快だった。
成長期にすら届いていないかのような低い背丈が不満だった。
与えられた責任に相応しくあろうと努力した結果相応に鍛えられた筈の掌の硬さに反して、小さい手を、嫌悪した。
例え外見が幼くとも、己は隊長で年嵩の年長者で経験を積んだ筈の先達者だったのだ。
本来ならば、前に立って藍染と刃を交えるのも、その身を賭けてでも戦いを終わらせるのも、一護の幼い潔癖な精神を護って見せるのも、自分のするべき役割で義務だった筈だ。同時に、必ず、と己に課した誓いでもあったはずなのに。
精一杯の威厳を取り繕うように寄せられた眉間の皺を、苦笑しながら撫でた優しい指は、もう無い。
どうあっても見上げなければ合わせられない視線に不機嫌になった自分を気遣うように、そっと髪を梳いた柔らかな掌はない。
何度訂正しても、悪びれなく冬獅朗の名を連呼した、伸びやかな声は、もう聞こえない。
ただ只管に、真っ直ぐ前だけを見据えて走り抜けた、あの幼い背中を、
全ての柵を断ち切るかのような鋭い漆黒の大刀を、
大事なものを、全て、自身の名の通りに護りきった、一護の、
「・・・なあ、一護。お前は、どんな表情で、」
淡い春の空を見上げる。
翳した掌から漏れる陽光が、閉じた瞼の裏に残像をつくった。
何処までも眩く、見るもの全てを惹きつけた太陽の化身のような少年は、この世界から失われたのだ。
残るのは、記憶に焼き付けられた、鮮やかな残像だけ。
「なんて無様さだ。なぁ、一護。・・・・俺達は、全てをお前に背負わせて、ただ護られた。
本当に、なんて、」
それでも、光に焦がれて、届く事のない手を伸ばす自分に、嘲笑が漏れる。
耳に、瞼の裏に、ふとした時の話題の端に、未だに色濃く残る、一護の欠片たちが、喪失を突きつけた。
「なぁ、一護。・・・・俺達は、俺は、それでも、お前が、------」
滅多に翳る事のない尸魂界の空に、薄紅が舞う。
風が穏やかに草木を揺らし、空気が甘さを含んで柔らかく緩む
ただ、空の下の死神たちの心だけを残して、全てが優しいぬくもりに包まれる。
春だ。
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暁と申します。
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